春日無線変圧器のPCL86シングル、KE-03SEを作りました。シャーシ未加工というバージョンの商品もあるからかキットとは区別して「パーツセット」と称して売っていますが、ていねいな説明書がついていて、少なくとも今回購入したシャーシ加工済みについては、実質的にはキットです。
の3つのアレンジを加えてみました。
春日無線変圧器ではWWWでは回路図を公開しておられないので、このページでも回路方式や部品定数などに言及することは差し控えますが、PCL86シングルで出力0.9Wという2つの公開情報から三結であることは容易に想像がつくと思います。
出力トランスにはKA-7530という型番の物が使われており、1次側インピーダンスは7kΩで5kΩのタップがあります。説明書では、このタップを遊ばせることになっているんですが、もったいないのでスイッチを追加してウルトラリニアとオリジナルの三結とを切り替えられるようにしてみました。正規とは逆相に結線して、タップをプレート寄りではなくB電源寄りにしています。
ウルトラリニアにすると必要になるかも、と思い、出力トランスの2次側から初段のカソードまでの帰還を追加して、これもスイッチでON/OFFできるようにしてみました。
ウルトラリニアのときのEp-Ip曲線なんていう虫のいい物は見つからなかったので、高間さんとおっしゃる方が公開して下さっているデータの五結のときのデータをプリントアウトし、物の本を見ながらロードラインを引いて計算した値を裸ゲインの近似として使って10dBのNFBをかけたつもりですが、五結のときより裸ゲインは低いはずなので、恐らく実際の帰還は10dBより少ないと思われます。
五結のときのEp-Ip曲線とロードラインを見ると、三結用に設定されているバイアスそのままでは深すぎてΔEp/ΔEgが詰まって非対称歪みが起きそうな動作点なんですが、バイアスまでスイッチを追加して配線を引き回しては不安定になりそうだし、フルスイングするほどの音量を出しては近所迷惑だし、所詮遊びだからいいや、っていうことで、バイアスはオリジナルの値のままにしています。
説明書では、カップリングコンデンサは奥まった位置に取り付けることになっているんですが、交換したくなったときに楽なように、ラグ板を一回り大きい物に交換して、配置を変更しました。まぁこれは、当面は将来のお楽しみのための準備に留めておきます。
PCL86なんて選択肢はないんだろうな、と思っていたんですが、クラシックコンポーネンツでペア\6,000-のMullardとペア特価\2,000-のSIEMENSを見つけたので、両方買ってきました。付属の球と3種類を取っ替えひっかえしながら聴いています。今のところの印象としては
という感じです。
まずは教科書的な稚拙な話ですが、ウルトラリニアにするとボリュームつまみの位置が同じでも三結のときより大きな音が出ました。
NFBについては、かけてもかけなくても差がわかりません。上で書いたように帰還量が足りないんだろうと思います。しかし、今のところ不満は感じていません。
スピーカはFW108Nダブルバスレフ+FT38DとFE167Eバスレフ+FT17Hの2種類を使っています。
総合的な感想はまとまらないので、何曲かについてFW108N+FT38Dを鳴らしたときとFE167E+FT17Hを鳴らしたときとの感想を羅列してみます。管はMullardを使いました。
ウルトラリニアだとギターとボーカルが同じ位置に聴こえたのに対し、三結だとギターが音色はそのまま一歩後ろへ引いた位置に聴こえました。それ以外は違って聴こえないというのが正直なところです。
三結だと、音量は十分出るものの音が引っ込んだ印象で躍動感に欠けました。ウルトラリニアの方が音が前に出てきて歯切れがよかったです。
ウルトラリニアだと何となくきゅうくつな印象ですが、三結だとのびのびとして元気な印象でした。
どっちの結線で聴いてみても、うるさいだけで今ひとつ元気のない印象でしたが、比べると三結では楽器がより貧弱な一方、ボーカルは立っていました。
ホーンやシンバルのシズルは三結の方がデリケートな表現で、ウルトラリニアだと、若干ベチャッとした印象ですが、ベースはウルトラリニアの方がしっかり出ていました。
どっちの結線で聴いても満足できます。傾向はFE167E+FT17Hと同じように感じました。
三結の方が弦や金管に躍動感があって好印象でした。
どっちの結線で聴いてもシンバルがちょっと息苦しい感じがしましたが、それ以外は満足できるレベルだと思います。ウルトラリニアの方が低弦につやがあり、全体的にも、やや躍動感で勝っている感じがしました。
三結の方が合唱がのびのびとしていて、響きが豊かな感じがしました。
ウルトラリニアでも十分満足できるレベルですが、強いて比べるなら、FE167E+FT17Hを鳴らしたときと同じ傾向は感じました。
三結の方がすっきりした印象ですが、すっきりしすぎていてウルトラリニアの方が本物っぽい感じがしました。
どちらの結線で聴いても、ひどく悪くはないんですが、今ひとつ伸びがよくない感じがしました。
小出力の真空管アンプですので、スピーカーの相性により音量・音質が大きく異なる場合がございます。
高インピーダンス(6Ω以上、8Ωを推奨)、高感度(86dB以上、90dB以上を推奨)の小型スピーカーを推奨いたします。
という記述があります。ここで使っているスピーカについて言えば、FW108Nが86dB/W、FE167Eが94dB/Wという能率です。FE167E+FT17Hを鳴らすと、やっぱり遊びで改造したウルトラリニアよりオリジナルの三結の方がいいようですが、FW108N+FT38Dを鳴らすと、曲によってはKE-03SEでは音量は十分出ても音質面で鳴らしきれず、上の記述の通りだなぁ、と思わされました。また、曲によっては稼いだゲインのおかげか、ウルトラリニアの方がいいケースもあって、興味本位でやってみた改造も無駄ではなかったようです。
上で
NFBについては、かけてもかけなくても差がわかりません。
と書いていますけど、後日、本を読んでいたら、間違いの事例として、その物ズバリの記述があり、実はNFBはまるっきりかかっておらず、差がわからなかったのは正しくって、ちゃんと作用させるには、ちょっと大掛かりな改造が必要になることがわかりました。
冒頭に書いたように、このページでは回路方式には言及しないことにしたという口実と、初歩的な誤りで恥ずかしいという実状があるので、具体的な間違いの内容は、ここには書きませんが、多少の知識がおありの方なら、「あぁ、やりやがったな」と察しがつく内容だと思います。
上でも
FE167E+FT17Hを鳴らすと、やっぱり遊びで改造したウルトラリニアよりオリジナルの三結の方がいいようですが
書いていますけれど、しばらく普段使いしていて、積極的にウルトラリニアに切り替えるか、というと、どうも敬遠してしまって三結で使っていました。駄耳では、切り替えた途端に違いがわかるという感じではありませんけれど、上の記述から拾ってみると
という印象です。
設計の時点から気になりながら無視していたバイアスを変更して浅くしてみました。ちょうどこの検討をしている途中で、上で書いたNFBの設計間違いが判明したので、NFBのつもりで結線してあった回路は廃止して、空いたスイッチをバイアスの切り替え用に転用しました。最初の設計の時点では、バイアスの結線を引き回して切り替えられるようにすると不安定になるんじゃないかと心配でしたが、やってみたら大丈夫でした。
1人で実験しているので先入観は排除できていませんが、ウルトラリニア動作時にバイアスを浅くすると、何となく息苦しさがとれたような気がします。